現職地方女性議員の「選挙と妊娠」#7<最終回>

こんにちは!

台東区議会議員の本目(ほんめ)さよです。「届きづらい女性の声を政治につなぎ、一つずつ実現していく」ことをミッションとした団体・WOMAN SHIFTの代表も務めております。

「選挙と妊娠」について、選挙3ヶ月前に第二子を出産した私と選挙2ヶ月前に双子を出産したうすいさんの経験をリアルタイムで記録に残している本企画。今回が最終回となります。

今回は2023年5月、4月の統一地方選後、本目が生後4ヶ月、うすいさんが生後3ヶ月の頃の記録をお届けします。

選挙直前の準備の様子や生後まもない赤ちゃんを抱えての選挙戦の実際、そして後進の方たちに伝えたいことについて話し合いました。

■2023年5月の記録(本目 生後4ヶ月、うすいさん 生後3ヶ月)

ー(インターン)まずはお二人ともご当選おめでとうございます。選挙前から振り返ってお話を伺っていきたいのですが、選挙前の3月は体調などはいかがでした?

(うすい)3月は双子が退院して北海道の実家に一緒に戻って来たくらいだったと思うんですけど、私自身の体調はそこまで悪くなかったです。

(本目)その後実家で双子ちゃんを世話をしつつ、選挙の準備を少しずつ始めてた感じ?

(うすい)そうだったと思います。その時の方が体調がよくて、徐々に3月末くらいから気持ちが鬱っぽくなってしまって。
実家に保健師さんが訪問で来てくれたんですけど、その時の診断でちょっと鬱傾向が出ちゃって。「選挙前だからだな」というのは自分でも自覚があったんですけど。

(本目)なるほど。双子ちゃんも無事退院できて実家で一緒に過ごしつつも、選挙前になるにつれ気持ちは沈んでいき…みたいな感じですかね。

(うすい)はい。双子を見ているのは幸せで楽しいし、かわいいと思っていたんですけど、仕事のことを考えると眠れなくなって、気持ちがすごいアンバランスになっちゃってたなと思いました。今振り返ると。

(本目)スケジュール的には3月から4月まではどんな感じでした?3月の中旬ごろには双子ちゃんは退院して、愛ちゃんはいつ東京に?

(うすい)3月30日に戻りました。

(本目)それで双子ちゃんは北海道のご両親に一旦預けたんですよね。ご両親大丈夫でした?

(うすい)それが母が膝を壊しちゃって、ずっと抱っこしてって状況だったので。足もしびれると言ってて、なので選挙終わってすぐに双子を迎えに行ったんですよね。
父も手が腱鞘炎になっていて、両親ともに満身創痍で選挙に挑んでくれていたようでした。

(本目)なるほど。何日に迎えに行ったんですか?投票日?

(うすい)投票日の4月23日です。

(本目)投票してから?それとも期日前投票行ってから?

(うすい)期日前投票に行ってからです。その日レインボープライドがあったんですけど、もういてもたってもいられなかったのですぐ北海道に帰って、さすがに疲れていたので投票結果も見ずに寝てしまいました。で、起きたら無事に当選していました。

(本目)何時に起きたんですか?

(うすい)何時だったかな。朝5時か6時くらいの授乳の時に起きて、「あ、受かってる」みたいな。

(本目)今は双子ちゃんと一緒?シッターさんはいますか?

(うすい)今、双子と一緒にいます。シッターさんはたまにお願いしているんですけど、もともと5月中は母に東京に来てもらうつもりでいたんです。なのでシッターさんにお願いする準備を全然していなかったせいで、シッターさんの日程も結構埋まっちゃってて…
多胎だと優先していただけるとは言いつつ、空いていない日も多くて今はシッターさんはいないです。

(本目)それは大変だ。二人いると寝る時間もタイミングがずれるから大変ですよね。

(うすい)そうですね。本当に全部倍なんだなっていうのは実感しました。

(本目)ちなみに私は4月から保育園に入れたので、一応なんとか保育の問題は解決はしていて、選挙に関してはだいぶ省エネでした。

選挙活動は選挙カーではなく自転車で回ると決めていて、電動だから大丈夫かなと思ってたんですが、午前中活動したらお昼にはすごく疲れてしまって。やはり産後すぐだとなかなか体力的にも厳しいというのは実感しました。

一方で選挙期間中も議員活動は休むわけにはいかず、むしろ個別のお問い合わせが増えたり、政策アンケートの結果を踏まえていろいろ確認事項があったりだったので優先してこなしていました。そうしたら選挙活動の余裕もなかなかなく、1日2時間くらいしか純粋な選挙活動はできてなかった気がします。そのうち1時間はオンラインでという感じですね。

あと、実は出陣式の時に上の子の中耳炎が発覚したんです。でも「もうこれはしょうがないな」と思って。
下の子をシッターさんにお願いして、上の子は体調悪くて預けられないので親戚に見てもらいつつ、オンラインの出陣式のみにしてあとは上の息子と一緒にいました。

翌日も治らずで、病児保育にも一応登録してあったのでお願いするか悩んだんですけど、議会なら使いますがで公務ではない選挙で使うのもな…と思ってしまって。その日は選挙活動は休んで、体調の悪い息子と一緒に過ごしました。

 

ーお二人とも、いろいろと葛藤の多い選挙活動だったんですね。きっと産後まもなくで活動量が制限される選挙というのは、不安もあったと思うんです。
当選後の今は「このやり方で間違ってなかった」「区民に自分の気持ちや政策が届いた」と思われる部分もあると思うんですけど、選挙活動を精一杯やりたい気持ちと制限がある現状について気持ち的にはどう折り合いをつけてましたか?

例えばこれが男性だったら産後まもなくでも、奥さんが見るって割り切って選挙活動に振り切れる人がほとんどだと思うんです。でも母親ってどうしても小さい子を預けている罪悪感ってありますよね。全然悪いことじゃないんですけど…そのあたりの正直な気持ちを聞かせてもらえたらありがたいです。

(うすい)私の場合はほぼ1か月くらい親に預けてるっていう状況で、搾乳しながら冷凍母乳を送ってという形で、選挙活動も1日最高立てて3時間で、30分しか立ってない日もあるくらいでした。

SNSで写真を投稿して「朝立ちました」とか「夕方立ちました」とか最大限立っているように見せたり、ボランティアさんに代わりにチラシを配っていただいたりはしましたが、やっぱり本人が立ってないとなかなか人は集まらないんだなというのは感じて。でも少人数でもなんとか旗を立てて「本人がもう少ししたら来ます」と言っていただきながらやったり、たくさんの方に助けていただき仲間に支えられたなっていうのは感謝しています。

あと幸いなことに私の耳には「子供どうしたんだ」といった声は届かず、むしろ「お子さん大丈夫?」とか「大変でしょう、産後の選挙」と地元の人も温かく声をかけてくださいました。
でもやっぱり預けているとどうしても罪悪感みたいなのは感じてましたし、親にも申し訳なかったです。やっぱり親の年齢的にも双子のお世話は大変だったろうなというのは痛感しました。

なので、今回の私のやり方はおすすめのやり方でもないなっていうのは、やってみて思いました。でも一方で多胎で産んですぐに選挙の場合、預ける以外の選択肢はあったのだろうか、というのも感じていて…まだ自分の中でもまとまってなくてすみません。

 

ー街頭演説ってもちろん大変だとは思うんですが、一方で「応援してるよ」といった言葉を直接聞ける機会でもありますよね。
もちろん立つ時間が長ければいいわけではないと思うんですが、もうちょっとやれたら良かったなという気持ちもありましたか?

(うすい)ありました。今回私は3時間おきくらいに搾乳をしてたので、駅に立つ時間も長くて2時間いれるかいれないかだったんです。
それと4年前の選挙を比べると、やっぱりもうちょっと立ってた方がいいだろうなとは思って。もちろん前回から応援してくれてた方が私のことを覚えてくれていて手ごたえを感じた一方、駅に長く立ってる他党の候補者の方と比べるとチラシを受け取ってくださる率が悪いなっていうのも感じました。
焦る気持ちや「このやり方でいいのかな」という不安は正直かなりありながらの選挙でした。

 

ー本目さんは今回選挙カー無しの選挙活動ということでしたが実際いかがでしたか?
将来、今回の本目さんやうすいさんのように産後まもなく選挙に挑む予定の人のために「無理をしない選挙をする」というスタンスを非常に理解できる一方、やはり選挙なので落選してしまう可能性もありますよね。

そうした中で、本目さんを応援される方の中には不安だからそのスタンスに口を出しちゃう方がいてもおかしくはないと思うのですが、そういう方はいなかったですか?

(本目)それは無くはなかったです。やっぱり応援してくれている人たちの中にも「本当に大丈夫か」みたいな気持ちはあったようでした。一方で「大丈夫なんじゃない?」といった声もいただけて、最終的には私に任せてもらいました。

結果的に、私は前回の選挙ではトップ当選で今回は2位だったんですけれども、票数の差としては前回からそんなに落ちてなくて100票も落としてないくらいだったんですね。ということは、実質的に私・本目さよへの票は増えてるなって思っているんです。
なぜかというと今回私より若い女性がたくさん出て、さらにママ候補も出ていたのでママっていうだけ、若い女性ってだけで入れてくれる人は減ったはず。

もしかしたら無所属でのママ議員がというのはあるかもしれないですけど、純粋に「本目さよが頑張ってほしい」と思っていただけているのかなと。それでこれだけ取れているならば、応援してくれている方は増えているのかなという気はしています。

 

ー選挙後の生活はいかがですか?まだ赤ちゃんも小さいと思いますが、少しは落ち着かれましたか?

(本目)それが選挙が終わった後の方が自分でスケジュールがコントロールできなかったので、つらかったです。
選挙中は自分で予定をコントロールして「この時間は子どもたちを預けて外に出よう」というのができたし、子どもや自分の体調の関係で無理になってしまったらボランティアさんもいるので申し訳ないと思いつつも、途中で変更することもできました。

でも、選挙が終わった今は会派の結成のために他の議員さんと会う必要があり、「なるべく早く会わなきゃ」みたいな気持ちで予定を詰め込んでしまって、結構ハードでしたね。
子どもの中耳炎が私にも移ってしまったのですが忙しい日々の中でなかなか治らず。ようやく今治ってきたんですが、1か月くらいかかりました。

 

ーなるほど。本目さんもうすいさんも新人ではなく実績があると思うのですがそれでもやはりコントロールは難しいものですか?

(本目)選挙後は自分だけで動けないことが多いので難しいですね。例えば会派を組むことに関しては、他に当選した人の顔ぶれによるので。今回は特に色々動きがあったので、その動きに翻弄されたっていう感じですかね。

 

ーうすいさんはいかがですか?当選してからの生活はご自身が想像してたよりもお忙しいですか?

(うすい)うちのところは会派を組むっていうのはバタバタしなかったんですが、書類作業に手間取りましたね。一期やってみての年度末の報告や政務活動費の報告、あとは選挙の収支報告などです。

 

ーでは本目さんも、会派が決まった今は少し落ち着かれたんですか?

(本目)ちょっと落ち着いたかな。
私の場合はWOMAN SHIFTの方でも選挙終わってすぐ立て続けに勉強会を入れていたので、そういう意味でもさらにバタついてました。
今はそれも落ち着きましたが、今回私は会派の幹事長になったのでそこでやらなきゃいけないことが出てきてるのと、あとは個別のご相談でバタバタしてます。でも、一時期に比べたら落ち着きました。

 

ー幹事長って例えば課長や係長が部をまとめるように、会派をまとめるような役割ですか?

(本目)そうですね。一般企業で言う課長のイメージかな。

 

ーでは新人の方を導くような役割も担う?

(本目)それもありますね。ただうちの会派の場合は新人さん一人いますが、全員で教えてくれてます。他の会派との調整をしたり、議会でやりたいことについての調整をしたりを主にやってます。

 

ー今回の選挙で、私自身も台東区の選挙公報や候補者のチラシをもらって見比べみてたんですが、その人の推してる政策やカラーはそれぞれだなと改めて思いました。例えば本目さんは子どもと女性にやさしい政策を掲げてますよね。
で、ある人は高齢者重視、ある人は若者の起業重視とかいろんなのがあるなと思ったのですが、逆に「この政策はやらないんですか?」と聞かれることはありますか?

(本目)今回は外での活動よりオンラインが多かったからか、あまりなかったですね。
やっぱり外で演説をすると「こういうのはしないんですか」って話しかけてこられる方がいらっしゃるんですけど、今回は良くも悪くも露出が少なかったのでほぼなかったです。国の政策に対する賛否を教えてくれ、みたいなのは1〜2件事務所に電話があったようですが。

 

ーうすいさんはどうですか?ご自身が掲げてない政策で、他の候補者が掲げてるようなことを聞かれたりすることってありました?

(うすい)私すごくよくあって。特に自分の政策の柱がジェンダーやLGBTQ、外国籍などマイノリティなので、高齢者向けの政策はやらないのか、等よく聞かれます。
高齢者施策は、結構多くの方が取り組んでいて、私はみんなが言ってない政策だからこそ私議会でやる意味があると思っているので、マイノリティ向けの政策を柱として掲げています。なのでそういう質問を受けたときは、「こういう意図で自分の政策として一番最初に書いてるますが、書いてないからと言って他の政策をやらないわけじゃないですよ」と説明をしてます。

あと今回は「区長選についてはどう考えてますか?」というのはいろんな方から聞かれました。その時は「●●のような政策を推してる人に区長になってほしいなと思ってます」とか、そういうお答えをしてました。

 

ー北区の区長選は、マスコミでもいろいろ話題になりましたもんね。
ちなみに他の候補者の方たちがどういう人でどういう政策を掲げているかや、選挙活動の動向についてチェックしたりはされてましたか?

(本目)ざっとは見たかな。でもじっくり見るほどの余裕は今回はなかったですね。

(うすい)私は今回は自分のメンタルケアを考えて、あえてSNSはあまり見ないようにしていました。でも、周りから状況を見聞きしたりして「そうなんだ」というのはありましたが。立候補届を出す前に、うちの幹事長や先輩方が「ここの党からは何人出るらしいよ」と大体の状況教えてくれたんですよね。
それでざっくりした状況は里帰り前の結構早い段階で把握してたのと、選挙ドットコムとかでどんな顔ぶれの人、何人ぐらい出るのかっていうのは調べたりしていました。

政策のチェックはそこまでしなかったですけど、もともとある程度掲げている政策を知ってる人たちがほとんどなのでざっと見るだけでも理解できました。選挙広報は配られたときにどれが見やすいかは気になっていたのでデザインのチェックはしましたが、細かいところまでは見れていなかったので終わってからじっくり読みました。

 

ーありがとうございます。今回お二人とも出産直後の選挙活動でしたが、もともと選挙の時期が決まっていたので、ある程度準備しやすいところもあったかとは思います。
でも、うすいさんは特に初めての妊娠出産でしかも多胎、本目さんも上のお子さんのケアが必要など想定以上に大変なこともきっとおありだったかとお察しします。

改めて当選後の今、今回の選挙を振り返ってみるとどんなお気持ちですか?今後、出産を控える中で選挙に出ることを考えられている方へのメッセージも含め、一言いただきたいです。

(本目)まずもうすでに何期かの議員の経験があるとか、私と同じような立場の人だったら、日頃の議員活動をやってれば選挙はきっと大丈夫と言えるかなっていうのが一つ。

もう一つは新人の方でも、やり方によっては妊娠や出産が追い風になることもあるんじゃないかということです。実際今回の選挙でも、投票日に出産予定日だった方が投票日より前に生まれちゃって、オフラインでの選挙活動がほぼできずだったけどトップ当選、という事例がありましたよね。

ただ、それが本当にすべての人ができるかどうかはもちろんわからないです。私は正直妊娠中だったら、今回ほどの選挙さえできなかったと思います。もっとオンラインの活動に寄ってたかも。自分一人の体じゃないので、妊娠中の方が怖いですね。倒れたときにどうするのかとか、自転車で回ることも難しいんじゃないかとか。

でも今回私や愛ちゃん含め、「出産前ギリギリまで働いて、産後すぐがっつり動き出す」みたいなやり方ではなく、なるべく無理をしない形での選挙活動からの当選、という事例を示せたのが一番良かったことかなと思います。

「スーパーウーマンじゃないとできない」って言うんじゃ後に続かない。私自身体力がない方なので「そんなの私には無理」って思ってしまう方なので。


ーありがとうございます。うすいさんはいかがでしょうか。

(うすい)私もそうだなと思います。私も体力ない方だなって自分で思ってるので、自分がもし妊娠中のままで選挙だったら、乗り切れなかっただろうなと。
なので「妊娠中や産後すぐの選挙はおすすめ!」とは言えないけれども、そうなった場合でもやり方はあるよっていう、一つの事例になり得たかなと思っています。

私の場合は「えいや」で挑んだというのが正直なところですが、それでも子どもも選挙もどっちもあきらめなくていいような形になったのは良かったです。

でも先ほどさよさんが話されてた選挙期間中に出産されてトップ当選された方も、産後間もないのに議会やその他の活動されているのを見てると、休めって言ってるわけでは全くなくて、「オンライン化がもっと進めば、もっと違うのかな」っていうのは思ったりはします。

私自身も多胎の里帰り出産でお休みの期間を少し長くいただいてたので、その期間中に開催されていた委員会等にオンライン開催があれば出たかったなとか、そういう気持ちはかなりありましたし。その分研修に積極的にオンラインで参加したり、書籍を買って読んだりはしていたのですが。

今回のような女性議員たちの選挙のやり方や事例が一つひとつ積みあがって、声が一つひとつ集まっていくことで、今後いろいろ変わっていけばいいなっていうのをすごく今思ってます。

出産や妊娠は自分で選べないタイミングだったりすることもあると思うので、「選挙のために何かを諦めなきゃいけない」という風潮がなくなることを強く願います。


ーありがとうございます。
お二人の話を伺って、いわゆる「スーパーウーマン」=体力があって、周りのサポートも万全で、24時間寝ないでいけるタイプ、ではないお二人だからこそ、今回の結果が伴って良かったなと感じます。

私が「良かった」って言うのも変ですけど、きっと他の方にとっても励みになると思うんです。お二人のお話にもありましたが「そんなこと言われてもできないよ」っていう例だと参考にするのは難しいので。

これまで約半年間お話を伺えて、台東区と北区を任せていけるお二人に出会えて私にとっても人生の大変良い経験となりました。

この度は本当にありがとうございました!

聞き手:小林美保(本目さよ事務所インターン)
編集:平理沙子(WOMAN SHIFTプロボノメンバー)

 

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