現職地方女性議員の選挙と妊娠<中野区議会議員・中村延子さんのケース #1>

こんにちは!台東区議会議員の本目(ほんめ)さよです。「届きづらい女性の声を政治につなぎ、一つずつ実現していく」ことをミッションとした団体・WOMAN SHIFTの代表も務めております。

WOMAN SHIFTでは選挙や任期を理由に議員に妊娠・出産を諦めてほしくない、という思いのもと、現職議員の「妊娠・出産」について発信をしております。私・本目自身も選挙3か月前に第二子を出産した経験があります。

前回は同じく選挙前に、双子を出産した北区議会議員・うすい愛子さんとの記録をお届けしましたが、今回は中野区議会議員・中村延子さんにお話を伺いました。

主に本目との対談形式で、事務所のインターンからも質問させていただいています。初回となる今回は、延子さんが妊娠5ヶ月(18週)時点での記録です。

幹事長など役職を引き受けながらの不妊治療についてや、不妊治療や妊娠の公表について。前回とはまた違った観点で、現職女性議員の「選挙と妊娠」についてお話を伺うことができました。

■中野区議会議員・中村延子さんインタビュー

(本目)まずはじめに、今回のインタビューの意図について私からお話します。以前、私とうすい愛子さんが2023年4月の統一選挙前に妊娠していた際に、月に一回定期的に選挙と妊娠についてインタビューを取って、それをまとめたものを選挙が終わってから公開しました。

今回ののぶちゃんのケースも一つの解というか、正解は別にないけど、一つの事例になると思うので。「選挙と妊娠」についてできるだけたくさんのケースを提示して、色んな風にしている先輩がいるんだよ、というのを示せたらいいなと思っています。

(インターン)ご説明ありがとうございます。まずは延子さんの今回のご妊娠について、ご自身が出馬された2023年の統一地方選との兼ね合いがあったと事前に伺ってるのですが、どんな選択をしてどういう経緯だったのか教えていだけますか?

(中村)まず私は、今二人目を体外受精の後に妊娠中なんですけど、一人目も体外受精で妊娠出産に至っています。

一人目の時はタイミング法(※不妊治療の初めのステップ)を長くやっていましたが授からず、2019年4月の選挙が終わってすぐの5月に体外受精をすることにしました。そのときは幸い一回で妊娠に至り、2020年の1月に出産しました。

で、やはり家族の中でも二人目が欲しいねという思いはあったので、不妊治療をいつ再開するか考え、結局2021年の5月に不妊治療を再開しました。

(本目)2021年5月に二人目の不妊治療を開始したのは、上のお子さんが何才のとき?

(中村)1才と4ヵ月かな。

(本目)うんうん。で、そこで開始して…

(中村)結果、今四回目の移植で成功して妊娠に至りました。逆に言うと三回は上手くいかず、流産も一度経験しました。

不妊治療も議会との兼ね合いだったり、幹事長という役職を引き受けていたりで忙しくて、なかなか治療の日程がとれない状況の中で、足掻いていたというのが現状で。

(本目)2023年4月の統一地方選前はどういう状況だった?

(中村)選挙が迫ってくる中、2022年1月に移植をして妊娠に至ったのだけれども、8週で心拍停止で流産になったのね。

その流産から、最短で3ヵ月空けないと次の妊娠への準備に進めないというところで、それが2022年7月だったんです。7月に妊娠したとすると、ちょうど選挙がある2023年4月に出産になるんですよ。さすがにそのスケジュールだと、選挙に向けての事前活動もできなくなるし、選挙自体も危ういなと。

ただ、状況として移植はせず採卵だけは行っておいてもいいかなと思ったので、ちょうど7〜8月は議会も閉会中で割と融通が利くし、7月は採卵だけにして移植は見送りました。

(本目)選挙前の移植は見送ったんだね。たしかに、夏は通いやすいというのはあるよね。

(中村)そう。議会が一番多忙なのは2〜3月と9〜10月なので、そこはなるべく避けるようにして。

ただ、2022年7月時点では移植を見送ったけど、選挙直前の2023年1月とか2月はありなのかな、と悩んだりはしてたんだよね。

(本目)選挙直前に?!

(中村)選挙前に妊娠だけしちゃうみたいなのはどうかな、と。先生にも相談をしました。

そしたら、「ストレスがない方が着床はしやすい」と言われて。「選挙前は多忙でストレスフルなんだったら、その数ヵ月で何か変わることはないから選挙終わってからでもいいんじゃないですか?」と言われたので、「じゃあ、わかりました。」となって。

それで選挙後の2023年5月まで移植は待った、というのが、私の選挙と妊娠の文脈での選択になると思います。

(本目)年齢的には何歳の時?

(中村)今妊娠しているケースは41歳で、採卵移植。今は42歳だけど。

(本目)なるほど。不妊治療の保険適用が42歳までなので、ギリギリだったんじゃないですか?

(中村)そうだね、43歳未満だからね。

(本目)わたしもすごく迷いました。

(中村)保険適用の件はすごく複雑で…私の場合、2021年11月の3回目の採卵凍結までは、保険適用はされてないんだよね。ただ東京都の助成金が所得制限がなくなったので、それはありがたかったです。第一子の時は全部自腹だったので。

本目)ありがたいよね。私も同じく。

■議員の役職と不妊治療、そして妊娠

本目)2022年の7月は移植は見送ったけど採卵はしたんだよね。採卵って病院に頻回に行かないといけないから、大変じゃなかった?

中村)採卵時は議会は閉会してたけど、採卵前の通院は議会が終わる前から始まってたので、そこは大変だったね。しかもうちのクリニックは、基本的に自然周期でしかやらないので、

(本目)それは日程がさらにきついよね。

(中村)ホルモンチェックの診察が3回あって。8日、10日、11日って通って、13日に採卵なので、まあ大変でした。もう、ほぼ毎日病院に行かないといけないよね。

ただ仕事もあるから時間は結構配慮いただいて、朝早くに病院に行かせてもらって、血液だけ採って、そのあと1時には会議に戻るみたいな。特別対応をしてもらったりとか。

(本目)今役職的には?

(中村)副幹事長です。

(本目)前の期は、のぶちゃんは幹事長で、会派のグループのチームのリーダーだったんですよね。幹事長だと調整業務も入るし、幹事長会だってきっと入るだろうし、かなりきつかったよね。

(中村)正直かなりきつかったです。ストレスフルで、不妊治療もほぼほぼダメだろうなって…でも年齢との戦いもあるから、やるしかないなという感じで。

だから、区政と不妊治療のことしか考えてない日々だったかな。

ただコロナの時期でイベントとかはほぼなく、そういう意味では自分の時間を割と自由に使えたのは良かったのかなとは思います。

(インターン)一つ教えてください。役職につくメリットって、何でしょうか?

(中村)誤解を恐れずに言うと「権力を持てる」というか。政策を通しやすくなったり、というのはあると思います。

あとは、自分が役職に就きたい!という意思に関わらず、会派内での年次のバランスや、応援してくださる人からの推薦等で引受けざるを得ない場面、というのもあるかな。

(本目)役職に就くと力を持てるのと、報酬が上がるというのもあります。ただやはりその分忙しい。

私からも誤解のないように一応言っておくと、力を持つっていうのは「俺は偉いぞ!」みたいになるっていうよりは、自分のやりたい政策が通りやすくなるっていう意味の力です。

■仕事と子育て、不妊治療の”三立”

(本目)第二子の治療だと、第一子の子育てと、不妊治療と、仕事の両立。両立というか三立になると思うのだけど、どの辺が大変で、どの辺を工夫した?

(中村)不妊治療の通院は朝早い時があるので、上の子のことを考えるとパートナーの協力なしにはできなくて。仕事でのゴルフのスケジュールをキャンセルしてもらったりした。ただ基本的にパートナーが忙しい時期だったので大変でした。

本目)今現時点では不妊治療は終わっているけど、今度はお腹の中の子を育てながら、上の子の子育てをしつつ、議会活動の三立だよね。今(2023年11月)は視察の時期だけど、視察行く行かないとかは、どう決めた?

※視察:他の自治体の先進事例を学んだりするために行う。毎年第三回定例会と第四回定例会の間の11月にあることが多い。期間は自治体や委員会により異なり、一泊二日や二泊三日など。

(中村)そこも結構悩みどころで、一人目の時はちょうど視察の時期に切迫早産になったりして…だからその時点で、ちょっと厳しくてそれ以降の視察はキャンセルしました。

で、今回は安定期に入ったばかりで体調も良かったので行ってきました。逆に、今の時期(妊娠5か月)以外に視察に行くのは私は無理だと思った。

(本目)そうだよね。そう思う。

(中村)もしくは、妊娠初期で体調が悪くなければ行けたりはするのかな。でも妊娠5か月以降は厳しいなって、実際今回視察に行って思ったかな。

(本目)妊娠中の視察って、どうするべきかすごく難しいよね。

私は一人目の時は、まだ安定期に入ってなかったけど、つわりがきつくなかったから行ったのね。あと妊娠自体も周りに言ってなかったから、行かざるを得ないというのもあって。

で出産後の翌年の11月の視察も、搾乳しながら行ったんだけど、当時の私は産後の視察の方がきつかった。

でも、今回の二人目は、11月の視察時点でもう妊娠7ヵ月とかで。視察先で生まれちゃったら…というリスクを考えると行けないなと判断しました。でも他の議員は臨月でも視察に行っているケースもあるので、そこは議員それぞれの判断かな。

(中村)そうだね。まぁ、本当は医師の判断を仰ぐべきだと思うけど…たぶん医師に聞いたら全部「ダメ」って言われると思うので、そこは悩んだ。

自分は今までの体調も含めて「行けなくはないかな」と判断して今回は行きました。

(本目)視察以外にも、お腹の中の子も含めて無理がかかってしまわないように、三立するためにはやることとやらないことを決めておかないといけないと思うんだけど、のぶちゃんは何を取って何を捨ててる?

(中村)公務は基本的に優先しています。でも、イベントの出席とかは諦めてるものも結構あるかな。

ちょっと遠いのとか、日曜日の開催で上の子の面倒を任せられないときとか。優先順位をつけて、行けるものに行かせてもらってる感じです。

本目)断るときはどういう風に言ってるの?

(中村)もう地域にも妊娠を公表しちゃっているので、「体調が悪くて」とか正直に言うようにしてます。

■不妊治療と妊娠、公表する?しない?

(インターン)不妊治療のことは周囲の方、どれくらいの範囲でお話されてたんですか?

(中村)私はXにも書いているので、全然公表はしてました。

(本目)会派にも言ってた?

(中村)言ってた。次は絶対役職を引き受けられませんよっていう牽制のためにも(笑)幹事長もやりきったし、不妊治療を再開するのに私にはもう時間がないんでっていうのは、1年位ずっと言い続けてたから、皆分かってくれてたかなと思います。

(本目)なるほど、議会内の役職との兼ね合いもあるよね。

(中村)そう。私の経験だけど、不妊治療自体は議員としてやるのは全然できると思うけど、役職受けちゃうと難しいところもあるかなと。

事前に下地をならしておくという意味でも、私は役所内でも議会内でも不妊治療の公表をしていました。

本目)そういう風に言えるのは、公表することのメリットだよね。

ただ、私自身は怖がりなこともあって、不妊治療や妊娠をリアルタイムではあんまり公表してこなくて。のぶちゃんは、不妊治療や妊娠を公開することに不安はなかった?

(中村)公表自体に不安はなかったかな。むしろ今後の人たちのために役立つ情報だなとすごく思っているし、両立が大変だってことを皆隠しがちだから、本当の現実を知ってもらうためにも公表することは必要かなって思ってます。

ただ、私もリアルタイムでの具体的な経過を書くまでの公開はしたくないなとは思っていて。

自分の妊娠・出産にトラブルがないかってところにもすごく不安はあるし、あと流産とかも今後は公表したいけど、リアルタイムで公表しちゃうと周りにも気を遣わせるかなって。

(本目)なるほど。

(中村)自分には知識があるので、初期の流産は遺伝子不良で仕方ないもので、約15%の確率で起きてるってことがわかってるから、自分の中では流産は身体的にはすごく大変だったけど、精神的に辛いとかは私の場合全くなくて。

でもそれを万人が知っているわけじゃないから、「仕事が忙しくてそういう風になっちゃったんだよね。」みたいに思われたら、すごく嫌だなって。

そういう誤解を生まないためにも、一旦間をおいて公表したほうがいいかなと思ってる感じです。

(本目)今妊娠はフルオープンにしてる?ネットでも?

(中村)ネットでは書いてない。でももうマタニティーマークをつけて歩いているから、バレてはいると思うんだけど。

(本目)それでもネットで公開するのとは全然違うよね。

(中村)会って実際にお話した人とか、議会内、役所内、町会系とかは全部公表してます。

(本目)公表して嫌な思いをしたことはなかった?

(中村)不妊治療してましたっていうのは、第一子の時も公表したけど、嫌な思いをしたことはないかな。

(本目)私が一番心配だったのは、今回幸い授かったから良かったけれども。もし不妊治療をしてるって公表して結局できなかったときに、「そういえば治療は?」って聞かれて「諦めたんです」みたいなのを言いづらいだろうなって、それが心配だった。

(中村)あーでもそういう意味だと、「そういえば2人目は?」って聞いてくる人がめっちゃいて(笑)

(本目)なるほど。逆にそっちが。

(中村)公表してると、そういう場面で「頑張っているんですけどね」とかって言えるからまだいいかな。

■味方を作っておくことの重要性

(インターン)最後に、もし同じような境遇に挑戦しようという議員の方に「こういうところを気を付けた方がいいよ」というアドバイスがあればぜひ教えてください。

(中村)こういう仕事だからこそ、味方をたくさん作っておくことは大切かなと思っています。何かあったときにかばってくれる人がいる状況は作っておいた方がいいかなと。

私はずっと断続的に不妊治療をしてるっていうのは言ってたので、会派の皆の周知の事実になってたと思います。

あと妊娠の報告も、今回は視察の件もあったので、12週で議会の中には公表するっていうのを決めていて。

会派内では、幹事長には心拍が確認できた6週の時点で報告、議長にも8週で言ったかな。会派内には10週以内で全員に伝える、というところは徹底しました。

議員ってある意味個人商店だけど、集団で動く場面もあったり、立ち回りがちょっと難しい仕事ではあるんですよね。なので「味方を作る」ことはすごく重要かなと思って、うまく立ち回れるように固めていった感じはあるかなと思います。

(インターン)ありがとうございました!

■次回予告

以上が、妊娠5ヶ月の頃の記録となりました。不妊治療や妊娠の公表という点について、本目や前回お話を伺ったうすいさんとは全く違うアプローチだったことが印象的でした。

次回は臨月を迎え、延子さんが産休に入っている2024年3月の記録をお届けします。私たちの記録が後進のみなさまの参考になれれば幸いです。

また、不妊治療と議員の仕事に関しては、中村延子さんのHPのブログでも経緯や決断の背景が詳しく書かれております。そちらもぜひご覧ください。

https://www.nakamuranobuko.jp/blog/#entry1773

 

編集:平理沙子

選挙と妊娠
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